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NTT出版
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著者の言うとおりならば、俺は「正常な人間」じゃなく「『超』正常」なのかもしれない。
(2008-11-30)
宮本武蔵を気取る訳では無いが、私は此処10年以上に
亘って「後悔」をした事が無い。「燃え尽き」以前の30代半ばより
若かった頃は、後悔した事もあった様な気もするが、もう良く覚えていない。
他人はどうかは知らないが、少なくとも現時点までの私にとって
「後悔」と言うのは、左程重要な感情では無いらしい。
・・但し、「過去の失敗から学ぶ」為に、定期的に「フィードバック」は行う。
だが、この時「後悔」と言う感情は殆ど全くと言っていい程、発生しない。・・
双曲割引については、グラフをイメージした方が判り易いだろう。
双曲線グラフの平面座標第一象限のみを考える。
X軸は時間軸であり、Y軸が割引率である。「儲かる・得する」と言う
経済的な「利得」の考え方で言えば、自分が金貸しか不動産経営の大家と
考えれば良い。賃貸マンションの大家だと仮定して、話を続けると
今すぐ、マンションの借り手が現れた時は、高い家賃で設定して
年利回り12%以上を取りたいと思っているが、一年間に亘って
空室状態が続いた場合は、もっと家賃を安くして、年利回り9%でも
構わないか、と思ってしまうし、更に3年間に亘って空室が続いたら
余程立地その他の条件が悪いのだろうから、もっと家賃を安くして
年利回り6%でも仕様が無いか、と考えてしまう「フツーの人間」の
「気持ち」を表したものと考えて良いだろう。
勿論、この場合は「素人の感覚」であり、「不動産投資のプロ」だったら、
例え資産デフレで売るに売れない状況でも、他に「打つ手」は幾らでも
あるだろうに、と考えるだろう。実は、相場も同じである。
「金融危機」云々が言われる昨今であっても、「儲け方」自体は
それこそ、山ほど沢山あるのだ。
どうも、双曲割引理論の提示する「フツーの人間の不合理性」
と言うのは、「投資に失敗する素人」を「正常な人間」と
考えたがる節がある様だ。
・・・
此処で敢えて、極論めいた事を言わせて貰うが、
少数であれ、ダイエットや禁煙に成功した者、トレーディングや
不動産投資に成功した者、更に消費者金融のビジネスモデルとしての成功
と言った事を考えると、資本主義ゲームの勝ち組プレイヤーは「『超』正常」であり、
負け組プレイヤーは「正常な人間」となり、「異常者」=「病人」が存在しない。
精神医学的に「治療の対象」が存在しないとなると、一気に「精神科医不要論」に
まで、帰結してしまうのでは無かろうか。勿論、トンデモ理論なのは充々承知で
こんな事を言ってるのだが。
行動経済からアプローチして「格差社会」の文脈で考えると、成功者を
「『超』正常人間」として、設定せざるを得ないだろう。だって、現実に
存在するのだから。精神医学的問題を抱えた「病人」と言うのは、この考え方では
「後悔」と言う「感情的問題」に極端に悩んだ挙句、鬱病になった人間くらいしか
いないだろうし、それが唯一の「治療対象者」なのかも知れない。
「医学的問題」中心と言うより「経済的問題」中心で考えると
「医療のプロ」である精神科医自身の出番が無くなってしまい、
著者は自分で自分の「存在意義」自体を危うくしている様にも見える。
単なる「老婆心」かもしれないが。
・・・
このレヴューも「線形的モデルの限界」の文脈の
中で書いている。
続きはまた書く。
実証実験に基づいた痛快な思考実験
(2008-11-24)
心理学は人間を機械とみなす傾向がある。コンピューターのアナロジーで脳や心を語るのはその典型だろう。本書で言うところの効用理論と認知理論はどちらもこの代表打者だ。しかし、人間という機械は情報処理装置を備えているだけではない。エンジンなのかモーターなのか知らないが、動力源だって備えている。一般には「欲求」や「意志」と呼ばれていながら、何故か心理学からはほとんど注意を払われてこなかったその動力源をつぶさに解き明かしている。しかし、その解き明かし方がすごい。「ある動物の行動がより低次のプロセスや心的能力で説明できる場合は、高次のプロセスや心的能力を持ち出すべきではない」というモーガンの公準を体現しているからだ。
説明に使う「低次のプロセス」は、ハトやマウスやサルの行動実験から導き出した「双曲割引関数」という原理だけ。あとは、それを補強するための枠組みとしてゲーム理論とカオス理論を少々。これだけの道具で、文学や哲学が長い年月をかけて洗い出してきた「意志」の性質と、それが個人の中で形成されていくプロセスを描き出し、「意志」にまつわる「それってあるある!」というエピソードの多くを説明してしまう。しかも精神科医らしく、フロイトの概念まで説明してみせるというおまけつきだ。そして話は、「意志」の功罪とあしらい方、「意志」と社会環境との相互作用にまで広がっていく。
もちろん、著者も指摘しているように、ここで描かれたストーリーが全て正しいと言い切れるわけではない。この本の一番の意義は、「双曲割引関数」という世間一般にとって目新しい知見を広めたことでも、結論として提示された「意志」にまつわるストーリー自体の面白さでもなく、その間をつなぐ論考そのものにあるのではないかと思う。つまり、一般的な概念や合理論的な推論だけでは演繹できないミッシング・リンクを、行動実験から実証的に得られた帰納的原理を用いることで補ってみせるという痛快さだ。
決して読みやすい本ではないが、興味深い小ネタも満載である。(個人的には、現在の自分と将来の自分との間の異時点間交渉という反復囚人ゲームが面白かった。)巻末にある長めの訳者解説がくどいくらいに親切丁寧なので、まず先にこれを読み、折に触れてそこに立ち戻りながら本文を読み進めるのがいいと思う。
双曲割引をめぐるやや雑然とした長いエッセイ
(2008-01-19)
著者は、未来の報酬の心理的な割引は、
合理的な指数関数ではなく、双曲線型であるという、
ハーバードにいた心理学者ハーンスタインの
仮説を研究してきた。
この事実はいまでは実験経済学の中で広く知られていて、
最近でも阪大のCOE研究でも使われているほどである。
双曲割引では、異時点間の選好に矛盾が生じる結果、
ダイエット中なのに、つい食べてしまう、とか
禁煙したいのにできない、とかいうような人間的、
あるいは日常的な悩みを説明できるのである。
これはすでに行動経済学のすべての教科書に書いてあるので、
詳しくはそちらを読むのがいいだろう。
本書は教科書に比べて、あまりにも話題が散発的で、
あまりまとまっていないため、エッセイというべきだからである。
著者は第一人者であるため、
私は双曲割引の基礎となる神経科学的な基盤について
示唆しているのではないかと期待して読んだが、
それは全くなくて、
過去の人間の知見と双曲割引仮説がいかに整合するかに
の説明に終始しているのは残念である。
ある程度どんな人が読んでも面白く読める科学の本
(2007-10-21)
訳者の解説が長く本論をかみ砕いて解説しているために、意志という掴みづらい事柄にもかかわらず、どんな人でも面白く読めるのではないでしょうか。癖や痛みにまで言及しないほうがわかりやすくてよかったと思いますが、人文科学を研究している人にはぜひ読んでいただくといいかと思われる一冊です。
双曲割引一本槍の怪書
(2007-02-17)
ヒトのもつ限定的合理性に関し、友野典男は「行動経済学」の中で、網羅的、横断的に
様々な議論を紹介している。その中で双曲割引は少々批判的な紹介に留まる。しかしエ
インズリーはまったく逆に、双曲割引ひとつでどこまで行けるか、やってみようじゃな
いのというアプローチをとっている。その辺は、学問の領域に目配せしなきゃいけない
経済学者と臨床的に使えるものは使っちまえという精神科医との差なのかもしれない。
エインズリーは驚くべきことに、意志の発生すら双曲割引との関連から説明してしまう
のだ。さらに意志の持つデメリット(満足度を減らす場合等)まで検討している。
しかし、本書はプロットも一本槍で筋が通って読みやすいのかといえば、さにあらず。
訳者も述べるように、枝葉が伸びすぎ(枝葉も面白い話が多いのだが)、いったい自分
は何を読んでいるのか、著者に置いてけぼりにされるような箇所が少なくない。
また最初に訳者解説を読むべきかどうか判断に迷う(私は最初に読んでしまった)。な
ぜなら第10章にあるように、それは報酬消費のピークにはやく到達しようとする「い
けてない」拙速な行為だからである。(逆にいえば、本書の読みにくさは、読者の満足
を最大化するために最適化されたプロットなんだろうか。なんて考えたが、多分それは
考え過ぎ。)しかし普通の読者であれば問題は無さそうである。双曲割引という概念に
初めて触れる場合や、本書の押さえるべき主脈は何かについて水先案内を受けたい場合
は、むしろ先に読んでおいた方が、適当だろう。

