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岩波書店
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「人が次に目指すファンタジーの姿について」の会話録
(2003-11-19)
1980年代に先進諸国が直面した閉塞感を超えるため、「ファンタジー」について語ろうと集まったドイツを代表する行動家3人の会話記録です。
当時、社会主義の失敗が明白になる一方で資本主義の欠陥も明らかでした。先端技術を導入し、生産性を向上しても地球の環境を悪化させ、最終的には人間の首を締めるのではないか?という閉塞感が世の中を覆っていたのです。
M. エンデは『モモ』『はてしない物語』『鏡のなかの鏡』で著名な物語作家。『モモ』に登場した時間泥棒・灰色の男とモモのやり取りは読者に強い影響を与え、それがこの鼎談のきっかけにもなっています。E. エプラーは西ドイツの政治家で、経済開発協力相、SPDの基本価値審議会会長を歴任しており、党派を超えた活動は若者に大きな影響を与えています。H. テヒルはシュットガルトでコミュナル・コンタクトシアターを主宰する演劇人で、政治・社会問題と演劇を結び付ける活動を行なっている方です。本文にも登場しますが、刑務所で囚人と刑務所職員が自分たちの立場を演劇で表現した話は圧巻です。
最終的に「ファンタジー」の姿は暗示されるに留まります。しかし、未来の社会像を考察するうえで重要なヒントが随所に散りばめられています。また、人間や社会に関する洞察が見られます。その点についていくつか紹介しましょう。
「衝突のない人類なんて、呼吸をやめた人類みたいなものだ。人間社会から衝突をなくせば、ゾンビ-とかミイラとか自動装置の世界になってしまう」。
「砂で小さなケーキをつくって、子供にちょっと食べてごらんとすすめる。すると子供は「まるで」ほんとうのような顔をして、食べてみる。(中略)ところが、きみが砂のケーキを口に突っ込もうとしたとたん、子供はきみのことを笑って「食べられないよ。砂だもの」という。子供は何の苦もなく想像力の平面と現実の平面を区別する」。
こうした前提のファンタジーは示唆が多です。
生きること、愛すること、食べること、
(2003-10-11)
ドイツでは、エンデの本をもって労働時間短縮のストライキに参加した人たちがいたという。ドイツ人の生き方とイタリア人の生き方が対比的に語られがちだが、自然に楽に歌いながら、愛を語りながら生きるイタリア人と、どこか理知的に判断しながら効率主義にまけない生き方をするドイツ人や日本人との間はこの素敵な対談集をもってしても埋めがたい溝があるように思える。
いずれにせよ、ぼくには最後までなぜエンデが政治的な活動と結びつくことがありうるのかすごく不思議だった。ああ、そう亡くなる直前のNHK特集でアインシュタインを語ったエンデもどこか不自然なものを感じていた。いつまでも「モモ」や「はてしない物語」のエンデであってほしいと思うのは、わがままで幼い判断なのだろうか。
テーブルに食器がならべられ、葡萄酒が運び込まれ
(2003-08-05)
ここでいう「オリーブの森で」とはイタリア、ローマ近郊ジャンツァーノのエンデの家、そして「語り合う」のはテヒル、エプラーそしてエンデの3人である。とりとめなく「螺旋階段をのぼるように」進められる「会話の記録」であり、従ってとても読みにくい面があることは否めない。議論の中には、エンデの「モモ」や「はてしない物語」が引用されるので、この二作品を読んだ上で、読んでいかれることをお勧めしたい。
会話の中身は社会批判、教育や哲学・心理学そして政治に関する問題についてまで多岐に及ぶ。「合理的」であることに反旗をひるがえし、素朴に、世の中について考えている。現代の消費社会の問題については、外面的に豊かな我々も精神的には貧しいヤツにすぎないのだ、と論じられる。人が!生きるために必要なのは、ともかく「暮らしてみたい」と思うようなボジティブな世界像だ、とエンデが述べているが(p.30)、まるで現代の日本社会を見通しているかのようなエンデの議論には感心してしまう。
--会話はゆっくりとフェード・アウトした。台所では夕食の支度をしていう。テーブルに食器がならべられ、葡萄酒が運び込まれた。・・・--(p.156)
会話のあと、3人がエンデの妻ホフマンとともに、どんな食事を楽しんだか、どんな時間を過ごしたのかが述べられており、生きることを愛するエンデの素朴な生活の様子が感じられた。

